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新薬のインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」について

新薬のインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」について

なぜ、渡部クリニックがゾフルーザを使っていないかについて説明したいと思います。

まず、実際の臨床での使用実績が不十分というのがその理由です。大きな期待とともに迎えられた新薬でも、実際に使用する中で予想されなかった副作用が生じて市場から撤退したり薬はたくさんあります。実際の診療において有効性だけでなく安全性がきちんと評価された薬剤を使用するのが賢明と考えています。


ゾフルーザについてのデータとしては、2018年9月にNEJM誌に掲載されたCAPSTONE-1 試験の結果及び2018年10月の米国感染症学会で発表されたCAPSTONE-2試験の結果しかありません。
前者は、健康で基礎疾患がない12~64歳の患者を対象に主に安全性を評価したもので、タミフルに非劣性であることが示されています。つまり同じ効果があったというデータです。また、CAPSTONE-2試験は、65歳以上の高齢者や、肺や心臓、腎臓などに基礎疾患を有する患者を対象としたもので、有効性でタミフルに非劣性であること、つまり同じ効果があるという事が示されました。これまでに示されているのは、タミフルと比較して、安全性・有効性ともに非劣性つまり同じ効果であることだけしかデータがありません。


一方、気になるのは耐性化です。ゾフルーザ投与後にアミノ酸変異のあるウイルスが小児患者の23%、成人では10%程度で検出されたと報告されています。ということは、この薬は、もしかしたら今、使ってはいけない薬ではないかということです。
ゾフルーザは、インフルエンザウイルスに対する作用点が既存のノイラミニダーゼ阻害薬(NA阻害薬)-タミフルなど-とは異なり、抗ウイルス作用が強い可能性があります。ですから、インフルエンザによる死亡率を減らす可能性を持つ新薬となるかもしれません。しかし、そのような薬剤を外来で多用し、それがウイルスの耐性化につながってしまったら、死亡率を減らす新薬となる芽をなくしてしまいます。


死亡リスクの高い重症例に対するゾフルーザの効果が出てくればこの薬の評価は決まってきます。渡部クリニック以外にも大学病院や総合病院など感染症の専門医のいる病院ではゾフルーザの採用を見合わせている医療機関がかなりあります。
実際、日本感染症学会インフルエンザ委員会は、まだ、ゾフルーザの位置付けを定めていません。その理由として、ゾフルーザのデータが不十分ということが影響しています。1回投与とはいえ、ゾフルーザ40mgの薬価は4789円で、タミフル5日分の薬価2720円の1.76倍です。タミフルのジェネリックはさらに安く1360円ですので、ゾフルーザはその3.52倍となります。


毎年、1000万人規模のインフルエンザ患者が受診してますが、1000万人をゾフルーザで治療すると、タミフルのジェネリックで治療した場合に比べて342億9000万円のコスト増となります。
有効性・安全性で同じであれば安い方がいいと思います。ただし、基礎疾患がないインフルエンザの患者であれば麻黄湯または葛根湯を処方するだけで問題ないと思います。


タミフルは、2017年にWHOによる「保健システムに最低限必要な薬のリストから外されました。その判断の根拠の1つとなったのが、2009年のBMJ誌に掲載された論文といわれています。この論文は、タミフルやリレンザなどのNA阻害薬は、インフルエンザによる症状を0.5~1.5日短縮するのみであり、その一方で、副作用としての嘔吐などの副作用が高頻度に生じると結論付けています。


このようにタミフルも国際的な評価は低く、なんと全世界のタミフルの使用量の80パーセントが日本での使用であるということです。

インフルエンザの診断と治療ついては、なんなりとお尋ねください。分かる範囲でお答えします。

2019年1月